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私が住む自治体のために、挙手!

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「民主主義は、人民の、人民による人民のための政治」

エイブラハム・リンカーン、米国第16代大統領


スイスの政治の流れは下から上へ。まさにピラミッドのような造りだ。スイスの民主主義の土台はタウンミーティングにあり、市町村が適用する法律や規則、それぞれの価値のおきどころはすべてここで生まれる。

 タウンミーティングはまた、スイス人の多くが賛成か反対かの表明として初めて手を挙げる場所でもある。人々が集まり、交渉し、共同生活の基礎を築いていく。

 スイスの政治学者クロード・ロンシャン氏は、「自分たちの共同体について自分たちの手で決め変更できる市民というのは、非常に優れた共和的観念の表れだ」と言う。そして、この観念を直接実現できるのがタウンミーティングの場だ。集会は主権者であり、自律的に決定を下す。それと同時に立法府でもある。

 スイスインフォは五つの村を訪ねてタウンミーティングの出席者に話を聞いた。ここでは、彼らが直面しているテーマや問題を紹介する。

消えゆく時代精神

 タウンミーティングはスイスの民主主義に見られる大きな特色の一つ。自治体がスイスのそれより大きい自治権を有する国は欧州にはない。それではもう何も言うことはないのだろうか。答えは否だ。タウンミーティングは今でも各自治体で重要視されてはいるが、危機に瀕してもいる。そして、状況は深刻化するばかりだ。出席率は30年前から低下の一方をたどり、底打ちの兆候は見えない。また、30年の間に800近くの市町村が合併により消滅した。それに、出席者が全有権者の1%に満たない集会もある。このルポでは、集会に出席しない多数派にも焦点を当てた。

 また、スイスの地方民主制がこのような風化の道をたどっている理由についても考える。

Renat Kuenzi

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Gipf-Oberfrick

「職場の同僚も応援してくれ、心配いらないと言ってくれた」

運命が決まるタウンミーティング開始直前のサンギーサ・バスカランさん
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そんなわけで、今回、スイス国籍を取得することにした
そんなわけで、今回、スイス国籍を取得することにした
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 アールガウ州ののどかな村では、若くてきれいな彼女はよく目立つ。濃い肌の色、黒い髪、輝くような白い歯。スリランカで生まれたサンギーサ・バスカランさん(33)は、4歳の時に両親に連れられて内戦から逃れた。2年後、家族はスイスで難民として認められ、都会から遠く離れたこの小さな村に腰を落ち着けた。そこはスイスでも特に保守的な州、アールガウ州だった。

 現在、バスカランさんは結婚して2人の息子があり、ライフアイゼン銀行で個人顧客アドバイザーとして働いている。スイスドイツ語を完璧に操り、スリランカとはもうほとんど縁がない。家族で暮らしていくのはスイスであり、現在、夫と一緒に家を建てているところだ。

 しかし、スイスでの国籍取得はそれほど簡単なことではない。夫はスイスでの居住期間が短く、申請はまだできない。バスカランさん自身も職業教育中の3年間は別の町に住んでいたため、つい最近になってようやく帰化条件を満たした。

 規定の用紙に何枚も記入して提出し、学校の担任教師の名前を記憶の隅から引っ張り出し、筆記試験に合格して、やっとここまで来た。彼女が住む村ギプフ・オーバーフリックはようやく、タウンミーティングでバスカランさんと2人の息子の帰化承認を諮ることにゴーサインを出したのだ。

ブーイングも

 タウンミーティングの開始が数時間後に迫ると、バスカランさんの緊張は目に見えるほどに高まった。「職場の同僚も応援してくれ、心配いらないと言ってくれた」とバスカランさん。
そんなわけで、今回、スイス国籍を取得することにした
そんなわけで、今回、スイス国籍を取得することにした
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 そう言うのは簡単だが、ギプフ・オーバーフリックの自治体にはちょっとした過去がある。この村の有権者は2016年、村の生活によく溶け込んでいたオランダ人女性ナンシー・ホールテンさんの帰化をタウンミーティングで否決したのだ。この時、集会ではブーイングが起こった。ホールテンさんは動物愛護家だったが、彼女の活動は自治体には過激過ぎた。そうして彼女は屈辱を受け、罵倒されることになってしまったのだ。

 そんな過去に不安はないのか。この問いにバスカランさんは首を振り、活動家のナンシー・ホールテンさんとは比べられないと言う。「ホールテンさんは例外。ギプフ・オーバーフリックはそんなに厳しい自治体ではなく、帰化率は高い」。そう言いながらも、子どもたちは家に残してきた。

特別な切り札

 帰化を決めるのが当局ではなく有権者であることは、自分にとってはむしろ有利だとバスカランさんは答える。「村の人は私を知っているから。私は村の中で働いているし、私の顔はライフアイゼン銀行のポスターにもなった。子どもたちも村のプレイグループや学校に通っている」

 そして、特別な切り札もある。「私の母は学童擁護員で、登下校時に子どもたちを道路で誘導している。だから、みんな母を知っている」

高まる緊張感

 体育館に集まった住民は273人。バスカランさんは何人もの人と握手を交わし、温かい言葉をかけてもらい、見知った顔に手を振る。知り合いは大勢いる。「ギプフ・オーバーフリックのやり方は知ってるだろ」と一人の男性がナンシー・ホールテンさんの件をほのめかしながらウインクする。バスカランさんはまだリラックスして笑い返すことができない。
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 この日はほかにもオーストリアとフランス出身の夫婦、そしてトルコ出身の10歳代の男性が帰化申請を申し立てている。当事者は体育館の最後方に置かれたベンチに座るよう言い渡された。「これってペナルティーボックスね」とオーストリア人女性が冗談を言う。票読み人の仕事がほんの少しばかり軽減される以外、特にこれといった理由はないことはよく知ってのことだ。というのも、申請人はまだ投票権を持っていないからだ。

 そのオーストリア人女性がバスカランさんの方に身をかがめながらささやく。「あなたひょっとして…さんの娘さん?」。バスカランさんの頬が思わずゆるむ。まさに彼女が言った通りだ。母親のおかげで彼女を知る人は多い。

スクリーン上の経歴

 村長がプレゼンテーションを通じて各申請者の出生地、育った場所、学歴、趣味、入会しているクラブなどについて簡単に説明する。「サンギーサ・バスカランさんは料理が好き」との説明の後に「スイス料理も作ります」と強調する。「お母さんの方がもっと知られており…」と言うと大きな笑い声が沸き起こり、がやがやという話し声で説明が中断された。
 
 そして質疑応答。「ご質問やご意見はありますか?」。一人の男性が法律的な規定について尋ねる。「未成年のティーンエージャーを両親不在の場で帰化させることは、そもそも合法なのですか?」。「はい、合法です」と、村長の返答。

歓迎された帰化

 次はいよいよ投票だ。申請者は体育館を退出しなければならない。賛成の有権者が挙手をする。バスカランさんのときには、票読み人が数えなくてもよいほど多くの手が上がった。ほかの申請者も全員、圧倒的多数で帰化を認められた。

 申請者が体育館に戻ると、住民の間から温かい大きな拍手が沸いた。バスカランさんは驚いたようだが、すぐに破顔した。「心からお礼を申し上げます」とマイクに向かって話す。「公式にみなさんの仲間入りをすることができてうれしく思います」。村長が言葉を継ぐ。「ギプフ・オーバーフリックもすんなりと帰化を認められるのです」。再び拍手が起こった。

Silbilla Bondolfi(文)、Thomas Kern(写真)

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Kammersrohr

「裕福な住民がいても協力してくれないのなら意味がない。ここでは全員が力を合わさなければ」

ウエリ・エムヒさん、カンマースロール村長
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出席者が会場に集まる
出席者が会場に集まる
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カンマースロール:面積0.94平方キロメートルとゾロトゥルン州最小の自治体
人口:29人、うち有権者は26人。現在、小中学校に通う子供はいない。
参事会(行政府):3人
政治家:兼職で活動
スイス最小の自治体はアールガウ州のカイザーシュトゥール。面積はわずか0.32平方キロメートルでサッカー場約40面分に相当。
スイス最大の自治体はグラウビュンデン州シュクオル。面積は439平方キロメートルとフランスの首都パリより広い。

 平野部の端、ジュラ山脈の起伏が始まるその場所にカンマースロールの村がある。農家や一軒家が数軒並ぶだけ。人口29人、面積1平方キロメートルにも満たないこの小村は、小さいスイスの中でもとりわけ小さい村だ。
 カンマースロールの特色はもう一つある。スイスでは一般的に、タウンミーティングは体育館や多目的ホール、あるいは村のレストランの宴会場などで開かれるが、この村ではそうではない。これらのどれも、村には存在しないからだ。村民が集うのは、ディミトリ・プリュスさんとマルセレ・シュレフリさん宅の居間だ。

居間の開放義務

 この地域出身の若い2人は、村役場を借りて住んでいる。ジュラ南麓の高台に建つ敷地付きの小さな一軒家。居間からは、平野部の南端の向こうに浮かぶアルプスの雪山が見渡せる。

 だが、今はその眺めを楽しんでいる暇はない。賃貸契約には、年に2回、タウンミーティングの開催場として彼らの居間を提供するという、居間の開放義務条項が載せられているのだ。さまざまな特色を持つスイスでも輪をかけて珍しい事象だ。

革製ソファと数脚の椅子

 今晩、またその時がやってきた。現れたのは10人。全員が握手をして挨拶を交わす。よそよそしい言葉は使わない親しい仲だ。玄関先で他愛のない話をする時間はあと数分。
 
 午後8時少し前、村長のウエリ・エムヒさんが中に入るよう皆を促す。ディミトリさんとマルセレさんは自分たちの黒い革製ソファに座り、ほかの人は椅子に腰かける。

 村長が机の前に座る。エムヒさんは農家だ。村長同様、兼業で書記を務める若いアリサ・ヴェサツさんが集会の議事録を自分のノートパソコンに書き込む。
出席者が会場に集まる
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集会の前におしゃべりをする村人たち。花壇に立つ家主もくつろいだ様子
集会の前におしゃべりをする村人たち。花壇に立つ家主もくつろいだ様子
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世界は複雑になるばかり、ここも同じ

 ウエリ・エムヒさんが出席者に向かって挨拶をする。居間に集まった10人は全有権者の38.5%に相当する。タウンミーティング出席率の全国平均と比較すると夢のような数字だ。エムヒさんが2列目の椅子に座った1人を票読み人に推薦し、全員がそれに賛成する。アリサ・ヴェサツさんが記録した、前回この居間で行われた集会の議事録も反対なしで承認された。

 そしていよいよ今晩の地方民主の本膳、昨年の会計が議題に上る。極小自治体ではあるものの、カンマースロールのお金や銀行口座の動きをまとめた書類は51ページに及ぶ。この山のような数字の背後には、カンマースロールの世界を描き出す情報と歴史が隠れている。

皆無に近いインフラ

 まだ若いディミトリ・プリュスさんとマルセレ・シュレフリさんに貸している役場の建物は、この小さな自治体にとってはまさに家宝のようなもの。敷地付きのこの一軒家は、自治体が所有する資産の大部分を占めているのだ。評価額は37万1千フラン(約4200万円)なり。

 いくら資料が分厚くても、ここに並んだ数字の桁数や総額を見れば、カンマースロールの資産は把握可能な範囲に収まっていることが分かる。道路が1本、今、村人が座っている役場が1軒、そして上下水道。これがすべてだ。学校やサッカー場、クラブといったインフラは一切なく、地方の自治体の多くがまだ所有している射撃場すら持ち合わせていない。その代わりにあるのは、少しばかりの森林だ。
集会の前におしゃべりをする村人たち。花壇に立つ家主もくつろいだ様子
集会の前におしゃべりをする村人たち。花壇に立つ家主もくつろいだ様子
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「この職に就く気はなかった。でも、ほかに誰もやろうという人がいなかった」

ロレンツ・ヌスバウマーさん、カンマースロール参事会参事


美しい土地、高い収益

 この小さな共同体がかろうじてやっていけるのは、この土地の美しさのおかげだ。集会終了後に野外で開かれたアペロの席で、「高額納税者がいるから生き延びている」とウエリ・エムヒさんが言う。彼は率直に話す。「だが、裕福な住民がいても協力してくれないのなら意味がない。ここでは全員が力を合わさなければ」

 カンマースロールの財政状況が良好なのは、高額納税者のおかげだった。そしてこれはまた、ウエリ・エムヒさんが村長の職に喜んで就いている理由の一つでもある。財政困難に苦しむ農村部の自治体は増えるばかりであることを、彼はよく知っているからだ。

 高額納税者の中には元実業家兼取締役だった人もいる。彼らが財政を支えた甲斐あって、ウエリ・エムヒさんが会計の承認を求めた居間では、10本の手が上がった。

危機の回避

 エムヒさんは会計係と書記の2人の女性に感謝を述べた後、集会を閉会した。所要時間はわずか28分だった。

Renat Kuenzi(文), Enrique Muñoz García(写真)
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Bassersdorf

「年次会計報告の承認については、有権者に口出しする余地はあまりない」

エルヴィラ・ヴェノスタさん、バッサースドルフ市役所職員
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 チューリヒ州バッサースドルフ。町からそう遠くない場所では、大型ジェット機がひんぱんに離着陸する。人口1万1500人は制度的には「市」。しかし、町は発展しても「ドルフ(ドイツ語で村)」のキャラクターは失われていない。毎夏、タウンミーティングが開催されるのも「ドルフプラッツ(村の広場)」と呼ばれる場所だ。そう、夏のミーティングは野外で行われる。

 この「オープンエア感」を生かして二つの懸案を一気に解決しようというのが、市当局の狙いだ。その懸案とは、第一に2016年にリニューアルしたドルフプラッツを活性化すること、第二にローカル政治にスポットライトを当てること。より多くの住民をローカル政治に引き入れるきっかけになればと期待する。

「常連さん」

 しかし、タウンミーティングを「夏フェス」感覚で、という企画に住民は冷めた反応だ。この6月の夕方、集まった有権者はわずか85人。「常連さん」とバッサースドルフ市役所職員のエルヴィラ・ヴェノスタさんが呼ぶ人々だ。この人数は約7千人の有権者のたった1.2%に過ぎない。それでも前年、初めてこの企画を立ち上げた時には150人が集まった。

 出席者のあまりの少なさにヴェノスタさんもかすかな落胆を禁じ得ない。その一方で、納得できる部分もある。6月のタウンミーティングで取り上げられるのは年次会計報告の承認だからだ。「これについては、有権者が口出しする余地はあまりない」(ヴェノスタさん)

 ミーティング開始から約45分後、会計報告書が無事承認されると、ようやくパーティームードが漂い始めた。バケツで冷やされた飲み物のボトルが次々に開けられる。アペリティフは市からの振る舞いだ。人々は次第に陽気になってきた。



Thomas Kern(写真)、Renat Kuenzi(文)


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 スイスの夏は、何百という野外フェスティバルで賑わう。集客力抜群の人気イベントだ。チューリヒ空港にほど近いバッサースドルフ市では、市当局がその人寄せ効果に目をつけた。参加率の低迷にあえぐタウンミーティングをイベント化しようというのだ。
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フォトギャラリー

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Eggiwil

「もう車の運転もできないし自宅は村外れの農家。会場の村の学校までは徒歩で1時間以上かかってしまう」

住民
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 てっぺんに1本の木を頂く起伏の急な丘陵が続く。広い野原には窓枠にゼラニウムが咲く農家が点在し、川には2本の橋が架かる。これがベルン州エメンタール地方に位置する人口2500人の散村、エッギヴィールの風景だ。

 今日は村のタウンミーティングの日。むしろ「亡霊ミーティング」と呼んでもいいかもしれない。今回の議題は行政担当者による年次会計報告だ。こういった内容のミーティングには、有権者の1〜2%しか参加しないことが過去の経験から分かっている。

多数派は「黙って支持」

 「年次会計報告書の承認は関心の低い議題だ」とニクラウス・リュエグセッガー村長は言う。「予算から大きく逸脱していない限り、誰もわざわざ投票しに行こうと思わない」

 「村の参事会にとって、タウンミーティングの参加率の低さは、参事会に対する住民の信頼の表れと解釈することもできる」

 参事会内部では、5月のタウンミーティングを廃止する案も既に話し合われた。だが、毎年必ず出席してくれる住民もいる。ミーティング終了後、住民と直接意見を交わすことも有意義だ。なにより、議題が本当に重要な時は参加率もアップする。平均4%の参加率が16%を記録したことも何度かあった。

「存続」すべき。だが「参加」はしない

 スイスインフォは、タウンミーティング直前の現地で住民に話を聞いた。その結果、参加しないことに良心の呵責を感じる人が多いということが分かった。参加の意義についても異論はない。投票するのがごく一握りの少数派であってはならないという認識もある。取材に応じた人の中では、タウンミーティングを廃止しようという人は文字通り皆無である。それならば、彼らはなぜ参加しないのだろうか。

Sibilla Bondolfi(文)、Thomas Kern(写真)

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「今日は他の用事があって行けない。いつもは参加する。特に選挙の時は。年次会計報告書にはあまり関心がない。行政を信用して任せるよ」

「何か特別なことがあれば必ず参加する。例えば20年以上前になるが、村への入り口に架ける橋についての決議があった。橋を、木製とコンクリート製、どちらにすべきかがテーマだった。建設会社の経営者として自分にとっては重要なことだった。何年もの間、危険な1車線の木製の橋を通っていたからね。その結果、木橋の横にコンクリート橋も作られた」
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「元参事会メンバーとして、タウンミーティングの低参加率問題は把握している。参事側の人数が有権者よりも多い時など、やりきれない思いをしたものだ。だからこそ、議題が年次会計報告だけで他に興味を引くものがなくても参加するようにしている」
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「行政を信用しているので、自分は奥に引っ込むことを選ぶ。今夜はリハーサルのために出席できない。タウンミーティングは大体金曜なのでいつものことだけれど。とても重要な議題ならば別だ。例えば子供や学校に関すること。オンラインミーティングになれば参加したいわ」
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「妻と老人ホームで暮らしている。今日は行かないよ。もう90歳、歳を取りすぎた」

「若い頃は張り切って参加したものだ。世界を変えたかったからね。今はそんなことは無理だと分かっている。昔は自分の町について一般の関心も高かった。行政が発行する投票用冊子がいけないのかもしれない。あれを読めば詳しいことが分かるので、わざわざ出席しなくてもと思ってしまうのかもしれない」
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「今日は参加できない。結婚式に招待されているんだ。年次会計報告よりも大事な議題の時はなるべく行くようにしている。選挙の方が面白い。といっても、立候補者も年々減っているので無投票当選になることが多いが」

「以前、非常に盛り上がったタウンミーティングのことを覚えている。従業員の出入りが激しく、雰囲気の良くない老人ホームが議題に上った時のことだ。私自身の母親が当時入居していたので事情を知っていた。だからミーティングでも発言して長々と弁舌をふるったよ。ちょっと長すぎたかもしれないが、村長は喋らせてくれた」

「話し終わると、盛大な拍手が起こった。結果的に、ホームの責任者が解雇されることになった。そういうところがタウンミーティングのいい面だ。とても直接的な形で民主主義が実践されている」
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「え、タウンミーティングは今日?すっかり忘れていた。投票はするがタウンミーティングに出かけるのは大変なので、何か特別なイベントのある時だけ参加する。祖父が射撃で受賞した時や夫がシュヴィンゲン(スイス式相撲)選手として表彰された時、それから18歳の成人証書授与式など。わざわざ山を下りて足を運んだよ」
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「タウンミーティングが終わった後、参加者がベーレンに寄ってビールを引っ掛けるのは伝統行事。自分は3回に1回ほどしか出席できないが、そんな風にして大事な案件について情報を得るし、少し議論に参加することもできる」

「初参加は中学3年生の時。ある旅館の購入が議題だったが、推理小説のように面白かった!今日も行くつもりだよ。忘れなければね!
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「今夜はアイスホッケークラブの集会がある。タウンミーティングにはまだ一度も行ったことがない。興味がないんだ。地目(土地の用途)変更が議題ならば行くと思うが。自分の友人でも行く人はほとんどいない。ただし、タウンミーティングが廃止されることになったら残念だ」
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「サッカーの試合と重なったので今日は人が少ないんだ」。1人の住民がガラガラの体育館を見回しながら、そう教えてくれた。

 実際、7人の参事と1名の書記、そして新たに選出された参事とその妻の他に、タウンミーティングに現れたのは、村全体の有権者1891人中、男性8人と女性3人のみ。22人という数字は、有権者のわずか1.1%に過ぎない。

 ミーティングは票読み人の抽選で始まった。参加者の中から白羽の矢が当たったのは養蜂を営むある住民。「彼が普段数えているのはミツバチだがね」と、村長が冗談めかす。

 さっそく年次会計書の報告に入る。有権者は質問を許されている。「幼稚園が2年制となり収支に影響はあったか」という質問が出るが、誰も答えられずうやむやに終わる。その質問者と村長とは、言葉使いから判断して親しい間柄らしい。投票の結果は反対1票、賛成21票で承認された。

次に住民からの問題提起や質疑応答に移る。ある養蜂家が参事会に感謝の意を述べる。ミツバチの群れ一つにつき20フラン(約2200円)の助成金支給を決定したという通知を受け取ったという。「実に素晴らしい。これは非常に嬉しい兆しだ!」。養蜂家はドラマチックに声を張り上げた。

 村長は父親のような笑みを浮かべると、次の質問者に注意を向ける。「村の老人ホームを巡る騒ぎは何事だ。地元の新聞が書き立てている。村として何か対応しているのか」。これに対し村長は「新聞の書くことを全て信じるな」とそっけない。

 別の住民が口を開いた。「今日叔父の葬儀を出したが、生前暮らしていた老人ホームのことは、とても居心地がいいと言っていた」。この発言で、前の質問者は納得した様子を見せる。

 3番目に発言したのは、その老人ホームの取締役会のメンバーだった。スイスでは介護職が不足しているため些細な理由で職員が辞めてしまったと語るs。これについて説明を、と迫るが、村長に遮られてしまう。すると質問者は椅子から立ち上がって「一切異議を認めないなら郵便投票にすればいい!」と怒鳴り、顔を赤くして荒々しい足取りで体育館を去って行った。

 「バイバイ、エーリヒ*」。村長はそう言ったきり、気にする様子もなく質疑応答を続ける。田園射撃大会参加の呼びかけや、託児所の需要があるかどうか周囲に確認してほしいという参加者への依頼などの後、引退する参事へのはなむけの言葉と新参事歓迎のあいさつを最後にタウンミーティングは終了した。そして一同はレストラン「ベーレン」に場所を移し、ビールと軽食を楽しむのだった。

*名前は変更しています。

Sibilla Bondolfi

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Troistorrents

「トロワトラン、ヴァル・ディリエ、シャンペリーの三つの地域はこの10年間、長期的な視野を持つ代わりに利益を追求し、敗者となった」

リュック・フェレさん、シャンペリー村長
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 ここ数十年で急速に発展したスイス山岳地方の小さな自治体の一つ、ヴァレー州トロワトラン村。1950年代に観光業が始まり、この村の全てがひっくり返った。山頂にはいくつものスキーリフトが立ち並び、モルジャン高原の上方には別荘が雨後のたけのこのように建設された。

住民が道を決定

 しかし単に無造作に発展していったわけではない。建設計画の建物や立地場所、施工期間に関しては住民の意見も問われた。住民はタウンミーティングで村の運命を決定してきたのだ。
 トロワトランはフランスと国境を接する山間の谷、ヴァル・ディリエ(イリエ谷)の入り口に位置する。この自治体の中心地は谷と、雪をかぶった山頂だ。

 この村からフランスの隣村シャテルまでは、直線距離ではあまり離れていない。そこでヴァレー州はシャテルの当局と共同で、フランスとスイスにまたがるスキー場「ポルト・デュ・ソレイユ」の土台を築いた。総滑走距離は600キロメートルで、世界最大のスキー場の一つに数えられる。

二つのタウンミーティング

 ヴァレー州には126の自治体がある。その中でも人口が最も多い11の自治体には、選挙で選ばれた議員から構成される市町村議会がある。そのほかでは今もタウンミーティングが開かれ、住民は参事会など執行機関の提案について議論し、その是非を投票で決める。

 トロワトランのタウンミーティングはくつろいだ雰囲気で進行する。住民同士が顔なじみだからだ。そして参加者は村長に厳しい質問やコメントを投げかけることも辞さない。

 タウンミーティング後は通常、地域共同体「ビュルガーゲマインデ」の集会が行われる。これは地元に根ざした名家がその地を支配していたアンシャン・レジーム時代の名残だ。
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心配の種はウィンタースポーツ

 近頃のタウンミーティングでは、トロワトランの管轄下にあるスキーリゾート、モルジャンがたどった運命が議題の中心だった。この4年間は連続して冬季の降雪量がほぼゼロで、この自治体が関与する山岳リフトが400万~500万フラン(約4億5千万~5億6千万円)の累計赤字を計上したのだ。

 さらに、古いスキーリフトを改装しなければ、冬季シーズンを目前に営業許可が取り消される可能性があった。

 しかし必要な資金額は自治体の財政規模をはるかに超えていた。そのため、トロワトランはあらゆる方面に助けを求め、村の別荘所有者にも声をかけた。別荘所有者は年月を経ていわば村の「家族」の一員になっていたため、頼れる存在だった。

 数回のタウンミーティングを通し、合計100万フランを超える資金が集まる見通しがついた。最終的にはその半分しか集まらなかったが、救いの手は差し伸べられた。

 そしてこの「救済金」のおかげで、今冬は全てのスキーリフトが運行できた上、雪も戻ってきた。モルジャンではアルプスのほかの地域同様、過去20年で最大の積雪量を記録したのだ。

統一は強み

 しかし中長期的な解決策は、各地の観光局とロープウェーを統合することだ。なぜならアルプスの山岳地域全体で「統一は強み」と固く信じられているからだ。しかしヴァレー州の谷にあるトロワトラン、ヴァル・ディリエ、シャンペリーは「この10年間、長期的な視野を持つ代わりに利益を追求し、敗者となった」と、シャンペリーのリュック・フェレ村長は語る。

 この三つの自治体は昨秋、観光税を一本化し、さらに税率を上げることに同意した。山岳地方の観光地では観光税収入をインフラの一部の建設、拡大、維持に当てている。

重要な宿泊税

 観光客および別荘所有者は、宿泊する際に小額の宿泊税を自治体に払わなければならない。

 モルジャンではその収入を元に、スポーツセンター、スイミングプール、テニス場が改装・拡張された。その背景にはタウンミーティングで宿泊税の導入案が満場一致で可決されたことがある。これは特に驚きには値しない。投票する人がお金を支払う人と同じだとは限らないからだ。

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揺らぐ村の生活基盤

 これで村の全てが丸く収まったのだろうか?そんなことはない。昨年の10月初旬、村に唯一残っていた日用品店がなくなるという知らせに、住民は驚きを隠せなかった。閉店の理由は売上が少ないことではない。その反対に売上はとても好調だった。

 理由は別のところにある。店の所有者である銀行が規模拡張のための土地を必要としていたのだ。しかし住民は村の生活基盤であるこの店の存続を求め、短期間に1千筆以上の署名を集めた。

 村長のファブリス・ドンネ・モネ氏は「これは二つの民間企業の間で起きている問題だ」と如才なく話す。

 しかし打開策の見通しはまだ立っていない。

運命のカギはタウンミーティングに

 確かなのは、新しい店ができるとしても、村の中心地には立たないことだ。村の中心地は長いこと村の顔とはいえなくなっている。そこには廃墟と化したガソリンスタンドがあり、がれきが散乱したままだ。これには多くの住民が「村の恥」と批判している。

 投資家は村の中心に住居付きの建物を新たに建設する計画だった。しかし昨夏のタウンミーティングで村長は計画の廃止を発表。「コストが高すぎで、収益が低すぎる」との判断を投資家が下したとされる。

 今後の行方はまだ全く見通しが利かない。ただ、はっきりしているのは、村の中心を生かすか殺すか、運命はタウンミーティングが握っているということだ。

Marc-André Miserez(文)、Thomas Kern(写真)
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Lokaldemokratie

「公務はボランティアで引き受けるものという意識が薄れると、自治体の能力に疑念が生じる」

クロード・ロンシャン氏、政治学者
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「公務はボランティアで引き受けるものという意識が薄れると、自治体の能力に疑念が生じる」
クロード・ロンシャン氏、政治学者

 「住民参加型の地方自治制度が、現代人の生き方にそぐわない場合が増えている」と、政治学者のクロード・ロンシャン氏は話す。

 スイスの政治はボトムアップ型だ。「地方レベルの民主主義が後ろ盾を失えば、スイスの民主主義は全体的に弱体化する」と同氏は言う。なぜスイスでは民主主義の土台に入ったひびが広がりつつあるのだろうか?以下に同氏が考える理由を列挙した。

疎遠: 自治体は「ベッドタウン」になりつつある。人の暮らす場所はもはやアイデンティティと一致する生活の場ではなくなった。

個人主義: 個人主義が広まり、「公務はボランティアで引き受けるもの」という意識が薄れると、自治体の能力に疑念が生じる。

人手不足: スイスの自治体では全国的に公務に必要な人手が不足しており、3千人から4千人のボランティアが必要とされる。そのため多くの自治体が窮地に立たされている。

能力の限界: 自治体の任務は非常に複雑。かつて自治体の伝統的な任務とされた福祉業務は現在、専門家に任されている(例えば社会福祉業務および児童・成年保護局)。

民主主義の欠如: 専門家が公務に携わると効率性が上がるが、市民の影響力は弱まる。すると市民が自治体行政から離れ、「公務は市民ボランティアが行う」という考えが弱まる。

逼迫した財政状況: 特に人口500人以下の自治体を中心に、財政状況の厳しい地域が増えている。

もっともな懸念: 公務を引き受けると自由時間が減る上、得られる報酬は少なく、公の目にさらされやすくなり、メディアで批判される可能性もある。こうした理由から特に女性は公務に就くことをためらっている。「女性は社会のために貢献したいと考えているが、強く批判されたり、罵倒されたりはしたくない」(ロンシャン氏)。

タウンミーティング: 制度的に客観的な欠陥がある。参加者は主に男性、年配者、事業者、協会、消防団で占められ、新参者、女性、若者が少ない。

解決策: 市町村議会の導入や、他の自治体との合併が解決策として考えられる。スカンジナビア諸国では自治体が大規模な自治体に吸収され、行政は外部に委託されている。

民主主義の弱体化: スイスの政治はボトムアップ型で、協同組合のようなシステムの上に成り立っている。そのため地方レベルで民主主義の弱体化は直にスイスの土台へのダメージとなる。

展望: 「重要なのは、今もこれからも、模範的に機能する自治体だ」とロンシャン氏は語る。

Renat Kuenzi
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スイスには1848年の建国当時、3205の自治体が存在し、1990年までその数はほとんど変わらなかった。

だがこの30年間で全体の4分の1を超す約800の自治体が消滅。2018年初め時点で2222の自治体が存在する。

自治体数が大幅に減少した理由は合併だ。財政問題や人手不足を解決する方法として合併が推し進められてきた。

しかし自治体の合併には代償も伴うことが最近の調査で分かった。代償の一つは、ここ30年来で下降傾向をたどる政治参加が合併によりさらに少なくなることだ。

基本的に、自治体の規模が大きいほど政治参加が少ない。人口の1%未満しか参加しないタウンミーティングもあった。

スイスでは現在、自治体の約5分の1でタウンミーティングが廃止され、半ば職業的な市町村議会が導入されている。特に大きな自治体や、フランス語圏のスイス西部、イタリア語圏のティチーノ州でその傾向が顕著だ。

だが市町村議会が最善の策というわけではなく、再びタウンミーティングに戻した自治体も存在する。

Renat Kuenzi

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